あおむろひろゆきのてくてく子育て日記〈第22話〉「木漏れ日の中で」
はじめてのきょうだいに、お姉ちゃんの心はちょっぴり複雑
あなたが生まれた日の話をします。
家を出る前に、あなたのおとうさんとおかあさんとおねえちゃん、3人での最後の写真を撮りました。食卓の上にカメラを置いたけど高さが合わなくて、食卓に「うしおととら」を15冊積み上げて、その上にカメラを置いてセルフタイマーで記念写真を撮りました。あなたのおねえちゃんがふざけて変な顔で映っていたけれど、良い記念写真になりました。
病院に行ってしばらくして、あなたのおとうさんとおねえちゃんは外で待つ時間になったので、近くの神社に行きました。境内に古いブランコとすべり台がある神社です。
最初は狛犬を怖がっていたおねえちゃんだったけど、神社に落ちているたくさんのどんぐりや落ち葉を拾っているうちに少しずつ楽しい気持ちになってきたみたいです。
そしてブランコに向かって走り出した時に、小さな石につまづいてコテンと転んでしまいました。
いつもは転んでもすぐに起き上ってまた走り出すのに、今日は地面に倒れたまま動きません。おや?と思ったおとうさんは、おねえちゃんの所まで行って「大丈夫?」と声をかけました。
それでもあなたのおねえちゃんは動きません。心配したおとうさんは、おねえちゃんを抱き上げました。するとおねえちゃんは砂だらけになった顔をしわくちゃにして、とても小さな声で一言「ママ……」と呟いて、涙をポロポロ流し始めました。
あなたがおかあさんのおなかに宿ってからというもの、おとうさんにはおねえちゃんが、あなたという弟ができる喜びと、おかあさんを独り占めできなくなる寂しさの狭間でずっと揺れ続けているように見えました。いつもは「おかあちゃん」と呼ぶけど、甘えたい時は「ママ」と呼ぶのがおねえちゃんのクセです。ここ最近は「ママ」と呼ぶ回数が随分と増えました。そしてギリギリの所で我慢していた気持ちが、神社で転んだ拍子に溢れ出してきてしまったようです。
「ママ…… ママ……」それは木々の揺れる音にかき消されそうなほど小さな声でした。溢れだす水のように、涙が止まりません。
さあ大変だと、焦ったおとうさんはどんぐりを拾って見せたり、ごりらのモノマネをしたりしてみたけれど、あなたのおねえちゃんは涙をポロポロ流し続けたまま。
困ったな、どうしよう、ついにはおとうさんまで泣き出しそうになった、その時です。ほんの一瞬、冬の冷たい風が吹きました。
その瞬間、大きなイチョウの木からたくさんの葉が落ちてきました。
それはまるで、黄金色の雨のようでした。とても美しい雨でした。
あなたのおとうさんとおねえちゃんは、思わず口をポカンと開けたまま、その雨に打たれました。
この光景が二人のために用意されたものだとしたら、それはあまりにもロマンチックすぎる光景でした。
思わず、あなたのおねえちゃんは泣くことを止めて「黄色い雨が降ってきた」とニッコリ。つられておとうさんもニッコリしてしまいました。
それから二人はブランコに乗って、おとうさんはおねえちゃんに、おねえちゃんが生まれた日から今日までの話をしました。おねえちゃんはどこまで話を 理解していたか分からないけれど、何度もウンウンと頷いて話を聞いていました。
おかあさんはあなた一人のものじゃなくなるけど、でもおかあさんはあなたのことも、生まれてくる赤ちゃんのこともどっちも同じくらい大好きなんだよ。最後におとうさんがこう言うと、あなたのおねえちゃんはウン!と力強く頷きました。あなたのおねえちゃんが、本当の意味でおねえちゃんになった瞬間だと思います。
いつの間にか黄金色の雨は止んでいて、二人の頭にはイチョウの葉っぱがたくさん付いていました。クスクスと笑いあいながら葉っぱを取り合って、「いっぱい泣いたらおなかすいちゃった」とおねえちゃんが言うので、近くのおうどん屋さんに行きました。
あなたのおねえちゃんはおうどんとおむすびと海老天を食べて、おとうさんの分のおうどんまで食べてしまいました。そのせいでおとうさんは、おうどんを5本くらいしか食べることができませんでした。
それでも、あなたのおねえちゃんが、心を落ち着けてあなたが生まれる瞬間を迎えることができることが嬉しくてたまりませんでした。
あなたのおとうさんとおねえちゃんは、そんな人です。
- 1
- 2